ヨガが体と脳にもたらすインパクト
ヨガに関する調査の分野で、科学的な研究はますます増えています。「なぜヨガにははっきり効果があるのか?」という疑問への答えを得るようになってきたことは驚きではありません。研究結果により、ヨガが様々な症状を改善することがわかっています。うつや不安、糖尿病、慢性的な痛み、さらにはてんかんさえ軽減できるのです。最近、国立衛生研究所は多額の交付金を複数のヨガ研究に助成しました。
その一つは、乳がん患者の健康にヨガがどのような影響を与えるのかを研究しているテキサス大学医学部のアンダーソン癌センターにおける統合的医療プログラム(Integrative Medicine Program)のディレクター、ロレンゾ・コーエン博士に与えられました。また、高校生の違法ドラッグ濫用を阻止、もしくは減少にクリパルヨガが役立つかを調査する研究を、クリパルセンターと共に実施しているサット・ビル・S・カルサ博士(ブリガム女性病院の睡眠医学部助教授)にも交付金が助成されました。
精神的および肉体的な症状の多くを軽減するのにヨガがいかに効果的であるかを示す、多くの研究結果が次々と発表される昨今は、とても心躍る時代です。
ボストン大学医学校の精神神経科で助教授を務めるクリス・ストリーター博士は「自律神経系に与えるヨガの効果;ガンマアミノ酪酸、アロスタシス(生理的な習慣変化で安定を図る)とてんかん、うつ、PTSD」という記事を最近発表し、生理メカニズムでは何が起こっているのかを詳しく説明しました。つまり、簡単にいうとヨガが体と脳にどういうインパクトを与えるかについてです。
ストリーター博士と彼女の研究チームが立てた仮説によると、ヨガは、ストレスにうまく対応するための身体機能である、迷走神経トーン(vagal tone)と呼ばれるものを高め、神経系の調整を助けます。迷走神経トーンをうまく整えることは、アロスタティック負荷(長期に渡って溜め込んだストレス)を減少させることと相互的に関連があります。回復力や健康で幸福な状態をヨガが増加させる理由は、迷走神経トーンに働きかけるポジティブなインパクトだと多くの研究者は考えているのです。
回復力の指標となる迷走神経に働きかける
ではその迷走神経トーンとは一体何でしょうか?それは私たちの脳神経の中で、最も大きい迷走神経の状態と直接関係しています。また、この神経は、体の中を移動するその特徴から「彷徨う神経」とも呼ばれます。迷走神経は頭蓋骨の底部から始まり、体中に張り巡らされており、呼吸、消化、神経系に関わりを持ちます。私たちの「管制塔」と考えられることも多く、迷走神経は主な身体機能全てを調整する助けをしています。呼吸、心拍、消化、さらには私たちがプロセスをどのように受け入れるのか、私たちが体験にどのような意味付けをするのか、といったことまでが迷走神経と直接関係しています。
迷走神経が、最適な生理的機能にとって重要な役割を果たしていること、また回復力の大切な道標となっていることは明確です。健康な迷走神経機能を持っている人は高いレベルの迷走神経トーンを維持している、つまり体と脳はストレスに脅かされていても回復力が強いと考えられます。興奮した状態から落ち着いた状態に持って行くことが容易なのです。例えば、迷走神経トーンが高いレベルの人はパートナーと喧嘩をしても、トーンが低い人に比べると早く立ち直ります。こうした人たちがより健康でより強い回復力を持っていると言っても驚くことはないでしょう。
迷走神経トーンが低い人は、逆にストレスや病気により繊細です。弱い消化機能、心拍数の増加、感情のコントロールが困難、といった問題を抱えている傾向があります。興味深いことに、迷走神経トーンが弱い状態はうつ、不安、慢性的な痛み、てんかんといった症状と相互に関係しているとされています。これらは、ヨガを練習することで著しい改善がみられる、と言われる同じ症状です。研究者は、ヨガで迷走神経を刺激することが、こうした症状を改善するという仮説を立てているのです。
この他にも、どのようにヨガと関係しているのでしょうか?より多くの研究によってプラーナヤーマのようなヨガの練習は迷走神経トーンを著しく増加させるそうです。ウジャイ呼吸のような「抵抗呼吸」は副交感神経を高め(リラクセーション反応)、心拍の変動性を活性化させます。いずれも回復力の指標です。
科学者らがヨガの効果を解明していく中、ヨガ教師はどの練習がどういう反応をなぜ生むのか、という理解を深めていくでしょう。ここに紹介したような研究結果がヨガのサイエンスを、これからも魅力的に洞察していくでしょう。そしてクリパルに関連する科学者たちに、様々な健康状態にヨガがどう影響するのかを探索していくための道筋を調えてくれるでしょう。
Angela Wilson アンジェラ・ウィルソン(MA)
クリパルセンターのスタッフであり、Institute for Extraordinary Living のFrontline Providers programのプロジェクトリーダー。このプログラムが健康、ウェルビーイング、地域サービスのクオリティにいかに影響を与えるのかを科学者たちと共に発表している。レスリー大学でメンタルヘルス・カウンセリングの修士号を取得。「Yoga International」「Yoga Therapy Today」の記者としてヨガ、西洋心理学、科学との関連について寄稿している。
[YOGA BULLETIN 2013年春号より引用]
2017-05-10
カテゴリ: Kripalu Newsletter