Kripalu Newsletter - 迷うことなく、道を進む ~天職への旅のガイド~

ヨガを始めると、「ダルマ(聖なる使命)」という言葉を耳にすることがあるでしょう。クリパルのIEL(Institute of Extraordinary Living)のディレクターであるステファン・コープは、ダルマを探求する視点として、葛飾北斎の絵に満ちている情熱、そして教典『バガヴァッド・ギーター』でのクリシュナとアルジュナの対話を取り上げています。彼の著書『The Great Work of Your Life』から抜粋する形でお届けします。

北斎の絵師としての情熱

数年前、ニューヨークのアートギャラリーをあてもなくぶらぶらとしていた時のことです。 衝撃的な日本版画に思わず足を止めました。それは、葛飾北斎の「神奈川沖波裏」で、巨大な迫りくる波が遠くにある山を取り囲んでいる絵でした。私は大学の美術の授業でこの絵について何となく学んだことを覚えていました。その絵には、前景に動いている波、そして遠くに、小さく動かない山を据えるという、何か「革新的な技法」が用いられたのではなかっただろうか?確かに、今ならそれが分かるのです。人生の半ばに差し掛かった私は、大学2年の頃には気づかなかったエネルギーとパワーでこの絵が満ちているのを感じていたのです。

しかしながら、絵そのもの以上に、その横のアイボリー色の小さなカードに書かれていた、作品についての絵師の言葉に心を奪われました。それは、「6歳頃から、生き物のスケッチを始める習慣がありました。」と始まり、次のように続きます。「私はアーティストになり、50歳からいくつか評判を勝ち得る絵が描けるようになりましたが、70歳以前の作品は注目に値するものはありません。73歳になりやっと、鳥、虫、魚や植物が育つ構造を掴み始めました。挑戦し続ければ、86歳になる頃には、確実にそれらをさらによく理解できるようになるでしょう。そうすれば、90歳には、それらの本質を見抜くことができるようになるでしょう。100歳になるころには、きっとそれらの神性を理解することができ、130、140かそれ以上になれば、私が描くすべての点や線に命が吹き込まれる段階へと到達するでしょう。ああ、天が長命を与えてくれて、これが嘘ではないと証明するチャンスを与えて欲しいものです。」

私が描くすべての点や線に命が吹き込まれる!彼こそが作品に情熱を持つ人間です。私はさらに詳しく知りたくなりました。彼は実際に140歳まで生きたのだろうか。その後、描かれた点や線はどんなものだったのだろうか。私は絵の前のベンチに座り、メモを取りました。「葛飾北斎、1760-1849、日本の版画家、日本における中国画の大家、浮世絵師、日蓮宗の僧侶」

その後、家に戻り、北斎をグーグルで検索しました。彼は89歳で生涯を閉じたが、思った通り、死に際してまでも、自分の芸術をより深く掴み取ろうとしていたそうです。「天が私にもう10年、いやあと5年でもくれたなら、私は真の絵師になれたのに」と、叫んだそうです。北斎は、作品を「物事の本質を掴み取る」方法としてとらえていました。そして、それは成功したように見えます。死後150年経った今でも、彼の作品はギャラリーの壁から離れて手を伸ばし、しっかりと私の心を掴んだのですから。何にもまして、私は北斎の作品に対する情熱の質に惹きつけられました。彼は、人生をダルマに捧げることで、深く、激しい人生となりえることを理解させてくれました。

人生とは、ダルマを見つけ、実践するプロセス

クリシュナとアルジュナの「驚くべき対話」の最初の部分では、人間として充分に生きる道でのダルマの役割と、その本質について語っています。これまで私たちは、ダルマとは何かという洞察について話してきました。つまり、あらゆる局面でダルマを探し出すプロセスについてです。しかし、ここで新しい局面が生まれます。自分のダルマを見つけたら、それをしっかりと情熱を持って抱き入れ、そこに自分のすべてを打ち込むのです。全身全霊で。

「自分のダルマに関して、躊躇してはいけない。」とクリシュナはアルジュナに教えています。「躊躇する心は分裂した心だ。躊躇する心は疑う心で、心が心自体と戦うことになる。無知で、優柔不断で、信念が欠如すると、人生を無駄にする。そういう人間は、この世でも、また、どこにおいても幸せにはなれないのだ。」とクリシュナは言います。

さて、北斎という人の特徴は、迷うことなく道を進み、明らかに人生を無駄なく過ごしたという点です。実際に彼は一瞬たりとも無駄にしなかったようです。そういう人生を送る人たちは、どのようにエネルギーを集約し、集中し、そして、引き出すかを学んできたようです。北斎のような人生は、誘導ミサイルのように映ります。

どうすればそんなことができるのでしょうか?どうしたら、私たちの多くが抱えている散漫な心から、北斎のような集中した心になれるのでしょうか?

クリシュナは、この原則を簡潔に言い表しています。「目的そのものと合致した行為は、統一を生む。ダルマを意識的に支える行為は、エネルギーを集約する力がある。これらの外へ向かう行為は、しだいに、私たちの内面を形作っていく。ダルマを見つけ、それを行いなさい。そして、その行為の過程で、エネルギーがレーザービームのように集約し、成果を生むのだ。」

クリシュナは素早くこのようにも付け加えています。「結果について思い悩むのではない。成功も失敗も、あなたには関係ないことだ。自分のダルマではないことで成功を収めるよりも、自分自身のダルマで失敗する方がよいのだ。自分の仕事は、自分のダルマを達成するために、できる限り多くの生命の力を集めることだ。」

この精神性については、中国のある偉人Guan Yin Tzuがこう記しています。「成功と失敗の数を数えて、人生を無駄にすべからず。ただ目的を定め、始めるべし。」

ステファン・コープ
臨床心理士、クリパルヨガのシニア教師、IEL(Institute of Extraordinary Living)ディレクター。著書に『Yoga and the Quest for the True Self』『The Wisdom of Yoga: A Seeker’s Guide to Extraordinary Living』などがある。

[米国クリパルセンター発行:YOGA BULLETIN 2012年秋号より抜粋]

2016-09-02

カテゴリ: Kripalu Newsletter

 

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